ま え が き
NHKテレビのトークショーの出席者の一人で、骨董商をしている人の話です。
「商売柄、全国へ出かけますが、特に何代も続いた旧家・名家が取り壊される場に
出かけることも多いのです。私が心痛むのは美術品が四散することよりも、
絵かきに描かせたであろう家族の肖像画や、古いアルバムがゴミと一緒に処分される
光景です。」
子供が少なくなる、先祖の地を離れる、職業が変わる、逼塞する・・・・・・・・・
と、その理由は様々ですが、今後はこんな光景はもっとありふれるに違いありません。
農業離れ、土地離れ、核家族化と共に、代々伝えてきた伝承や行事も消えかけです。
古い、顔もみたことのないじいさん、ばあさんのことなどどうでもよいのが当たり前
ですが、誰でも年を取ったある日、自分はどこから来たのだろう、誰の末に生まれた
のだろう、と思うかもしれません。物はいつかは消滅して当然ですが、そんな時のた
めに記憶は残しておきたいのです。庶民の記録など残る術はないのですが、それでも
こうしてバラまいておけば、どこかで息継いで行くかも知れません。一人でも血の
つながる人がいつか読んでくれるかも知れません。
平成9年5月29日
森坂尚子
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